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「依存症と回復」
            
 

東京アルコール医療総合センター (成増厚生病院)医学博士 精神保健指定医 垣渕 洋一先生


回復とは何かを考えるためには、依存症は何を病む病かを知っている必要があります。アルコール依存症に限らず、依存症は霊的(スピリチュアル)な病です。霊的に健康であるというのは「人間を超えた大きな存在ときちんとつながっている状態」を意味します。神様でも、御先祖様でも、地域共同体でもいいのですが、依存症になると、そういう存在とつながりを実感できなくなります。人の中にいても孤独を感じ、一人でいることの能力が低下します。感情障害、判断力の低下、優先順位 、身体的機能や能力の低下、人間関係も悪くなります。コミュニケーションスキルの低下やモラルの低下、正直さを失います、記憶力の低下を招き、信じる力も無くなってきます。仲間や友人を失い、自分と他人の境界線もあやふやにあり、人の領域に侵入したりします。社会的信用もなくなります。ゆだねる力、金銭感覚もおかしくなります。意志力、集中力も低下し、価値観も歪みます。このように、飲む飲まないという以外にも病んでいるものがとても多いのです。

*依存症の進行 その1
依存症が進行すると、ある時期までは『耐性の増加』、つまり飲める量が増えます。ブラックアウトといって、飲んでいる時には特にひどく酔っているようには見えなかったのに、酔いから覚めた時に、記憶が全くないことを言います。飲酒量の増加に伴い心配した家族や職場の同僚が心配したり止めるようになると「隠れ飲み」が始まります。そして、お酒の問題については話せなくなります。約束や決心を破ったり、物事への興味を失い、仕事や、金銭面での失敗をするようになります。失敗する都度、自責の念に駆られたかと思うと、他人のせいにして、周囲との関係を悪くします。その結果「不当な恨み」を持ったりします。また不摂生な食生活のため、体調が悪くなります。

*依存症の進行 その二

飲もうか・飲むまいかという初めの一杯への焦り、ブラックアウトが増加します。言い訳しながら飲酒をするようになり、大げさで攻撃的言動が増えようになります。コントロールして飲もうとするが、失敗を繰り返します。その場から逃げたくなる衝動にかられ、家族や友人に見放されるようになる。アルコールが体から抜けていく時に、手指振戦(震え)が出現します。朝から飲酒することもあります。人によっては耐性が減少し、飲める量が少なくなります。酒浸りの状態になり、モラルの低下をまねきます。そして、異常な思考になります。「より低級な場所での飲酒」がはじまり、言いようのない恐れ(恐怖感、不安感等)がおき、行動が起こせなくなります。最終的には、すべての言い訳が崩壊し、完全な敗北を認めるようになり、、漠然としたスピリチュアルな望みがおきる。
 ここが分かれ道、飲酒して「死」ぬか断酒して「生きる」かを選ばざるをえなくなります。


*依存症からの回復とは
アルコールやその他の気分を変える薬物への身体的・精神的依存を克服し、これからの薬物の必要性や欲求を感じることなく、バランスのとれた生き方を学ぶ継続的な過程です。結果として、その人の身体的、精神的、社会的、霊的な状態、有様が変わり、もはや幸福感や充足感をえるための薬物は不必要となること。結果だけでなく、過程も回復である。

*回復のための行動

  三本柱として伝えます。1、通院・入院:飲まない人たちのいる環境に身を置くことです。そういう環境に身を置くだけで、飲酒欲求がなくなる人もいます。2、自助会、ミーティング:自分の飲酒問題を吟味する、自分のことを語り、人の話を聞く、断酒を続けている先輩との出会うなど回復のために非常に重要な役割を担っています。 三、抗酒剤:断酒が安定するまでは使うことをお勧めします。

*回復の段階 その1

◎治療前:問題には気付いていない
@問題を解決するための動機付けをする。
A問題を解決しようとする。
B節酒を心がける。
C断酒の必要性を受け入れる。
D援助を受けずに断酒を試みる。
E健康になりたいという気持の芽生え。

この段階をへて
*回復の段階 その2
◎治療導入:問題に気付く
@人生が回らなくなったことを認める。
                       A援助の必要性を受け入れる。
B援助を受けての断酒を試みる。
C離脱症状の回復。
D処方薬の減量を試みる。
E希望が生まれ、動機が高まる。

*回復の段階 その3

◎回復初期:両価性に取り組む
@短期間だが社会的に安定する。
A病気だと認識し、受け入れる。
B薬物を使わない対処法を学ぶ
C「しらふが大切」という価値システムを知る。両価性とは止めたい気持と飲みたい気持ちの両方があること。 

*回復の段階 その4

◎回復中期:取り組む気持が明確になる
@休養、栄養、活動のバランスのとれた生活 をする。
A回復プログラムを自分で決めて行う
B活動の範囲を広げる
C変化をうまく扱う
D 社会的ダメージを修復す

*回復の段階 その5

◎回復期:変化を安定させる・新しい行動をする
@原家族の問題を解決する
A人との親密な関わり方を学ぶ
B様々な役割を統合する
C役割を中心としたライフスタイルへと建て直す

*回復の段階  その6

◎回復の持続:標準以上の健康さへ
@回復のプログラムを続ける
A自分の成長と自己開発を進める「宝探し」
B人生の節目、複雑な状況にも立ちむかう

*回復 霊(魂)性について

依存症は「霊的な病気」魂が病む病気
生きるためには、他のどんな存在よりも「人間を越えた大きな存在」(ハイヤーパワー)が近くにあることが必要。
依存症はどんな存在より、アルコールとの関係が近くなっている状態。
十二ステップは関係回復のための良い方法
アルコールより近くになれるのはハイヤーパワーしかない?
断酒継続の中で自然に復活する人もいる?
人を近くすることは安全か?

仲間を通して働くハイヤーパワー(ミーティーングを通して仲間から気づきをもらう)

*再発の段階  その1
◎引き金
@ストレス
転勤、就職、転居、子供の誕生、
職場での口論、対立、ミス
離婚、解雇、病気、家族の死
Aネガティブな感情
うつ、怒り、混乱,不安、恐れ、寂しさ
B空腹、痛み、疲労、渇望などの不愉快な身体状況

*再発の段階 その2

◎再発
@社会的な活動、レクレーションが減り、引きこもりがちになる
Aミーティングや集団療法、その他の治療のばから遠ざかる
B回復のための新たな方法や建設的な考え方を実行できない
C否認や、誰も助けてくれないという否定的な考え方がもどってくる

*再発の段階 その3

◎再発
D服薬をかってにやめてしまう
E飲酒が楽しんだり、問題を解決するための唯 一の方法だと信じるようになる。
F飲酒しても、精神状態に悪い影響はないと信  じるようになる
G嘘をついたり、ごまかしたりする

*再発の段階 その4

◎再飲酒
飲み始める 

*再発の段階 その5

◎崩壊
@連続飲酒発作
A自殺念慮、恐怖、フラッシュバック、幻覚症 状など重要な精神症状の出現
B仕事をやりとげる、家族とコミュニケーショ ンをとるなど、家族や職場で責任を果たすこと が困難になる

*断酒が安定したら、飲み方の問題から生き方の問題へ

 なぜアルコールが必要だったか
 どんな強さが欲しかったか
 どんな弱さを隠そうとしたか
 どんな問題から逃げようとしたか等々の棚おろしが回復には必要です。

*いい人症候群

◎再発・再飲酒の誘発因子
頼まれたら断れない
嫌われたくない
仕事、付き合い、家族、友人、恋人のことなど
疲れをためる
これだけやめたのだから大丈夫
一杯くらいなら止められる

*抱えきれない荷物

抱えきれない荷物は下ろすことです。

*優先順位をつけよう!

お手玉はいくつ落とす
私の問題ではない
相手の心を読みとるな!
断酒が優先!
飲んだら死ぬ

*断酒して得るモノ

身体の健康
心の健康
家庭崩壊の回避
解雇から逃れた
人間関係の修復
落ち着いた生活等々



 
自分を大事にしよう!そして、目は観察し、いたみや喜びの感動を享受できるように心がけようそして、実践しよう!をモットーに
回復とは、心の中畑に隠された宝を掘り出すこと、自分の中にある宝を見つけて磨くこと。

 ご静聴ありがとうございます。


質問
  遺伝子の解明がすすんでいますが、素人の感じですが、アルコール依存症は遺伝子が係わっているので  はと思いますがいかがでしょうか?

回答
  遺伝子が関わっています。お酒がどれぐらい飲めるかはアセトアルデヒド脱水素酵素というの能力に大きく影響されます。この酵素活性は遺伝的に決まります。活性がゼロの人はお酒が飲めないのでアルコール依存症に絶対になりません。依存症者には、緊張しやすい、不安が高い自己否定感が強い、全か無か思考などが共通してみられます。ただし、病前からの性格なのか、病気になったからこういう性格になったのかはわかりません。最近は、性格を規定する遺伝子が発見されつつあり、将来的には明らかになるかもしれません。

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